梅棹忠雄『情報の文明学』が想像した新たな経済とは

2015年5月28日

『知的生産の技術』(岩波新書)というベストセラーで有名な著者ですが、本書に収録されている「情報産業論」は1963年に発表された論文です。1963年というのは、東京オリンピックに向けた経済成長の中にあり、テレビ(ほとんど白黒テレビ)の普及台数がようやく1500万台となった時代です。本論文は情報社会の到来をいち早く予言したものですが、著者の洞察力の鋭さに驚くしかありません。

本論文では、人類の産業の展開を「産業史の三段階」とし、1)農業時代(食物の産業化)、2)工業時代(物質およびエネルギーの産業化)、3)精神産業(情報産業)の時代の三段階に分類しています。そして、著者は情報の価格決定の仕組みに着目し、工業化社会を前提とした現代の経済学では精神産業(情報産業)の時代には対応できないとし、工業的経済から精神産業(情報産業)的経済へと転換していくことを予想しています。
現代、経営理論においてはマイケルポーターがCSV(Creating Shared Value;共通価値の創造)を提唱し、また消費者の購買行動においては(ソーシャルメディアの浸透もあり)「共感」を得ることが重視されるようになっています。労働形態としては、非営利セクターや社会起業家、プロボノに見られる、新たな労働の形が目立っています。また、非営利バンク、クラウドファンディング、ソーシャルインパクトボンドなどの新たな金融が成長しつつあります。そして、企業や団体においても、このような文脈に沿った情報発信が重要になっています。精神産業(情報産業)の時代における新たな経済として、著者が具体的にどのようなものを想像していたかは分かりかねますが、私は、このような変化が「新たな経済」の端緒と言えるのではないかと考えています。